見送る季節
嫌いな季節はありません。
ありませんが、北国において秋から初冬のこの時期は、急激に命の気配が薄れてゆくのを感じてしまい、少し寂しく思うこともあります。
前回の記事のボロボロの蝶も、もう姿を現すことはないでしょう。
初秋の頃には賑やかだった虫の合唱もパタリと止み、明け方になると待ちきれないようにさえずっていた小鳥たちの声もだんだんと聞こえなくなりました。
(寒い時期になればなるほど、鳥の声は聞こえなくなる気がする…体力温存⁇)
少し前までは、庭など外に出ている時に
「コーウォオー!コッコッ、コォーウォー!」
という頭上からの鳴き声に空を見上げると、南へ渡っていく白鳥の群れが、上空で編隊を組んで飛んでいくのを幾度か見かけました。
暖かいところへ行くんだねぇ、これから氷点下20℃に耐える私たちを置いて。
そんな冬の入り口のこの季節に私の誕生日があります。
先日また一つ、年を取りました。
もちろん年を取ることが嬉しいわけではありませんが(一応女ですしっ!)、なんやかんやと無事に生きてこられたというのはありがたいことです。
最近、夫は仕事が忙しくてバタバタしているので、
「きっと誕生日なんて忘れられてるだろうな〜(´-`).。oOマ、シカタナイネ」
と、安いスパークリングワインでも買って、飲みながらテレビ前アリーナ席でフィギュアスケート観戦と洒落込みますか!と、ボンヤリ計画を立てていました。
ところがどっこい。
夫氏、忘れていなかった!
街でごはんとお酒をご馳走してくれるらしい。
ありがとうございます!
酒ー!☆・*:。.:(゚∀゚)゚・*:..:☆ごはんー!
(※また一つオバチャンの階段を上がったことなど、美味しいお酒と食の前では些細なことなのよ♪)
ということでフィギュアスケートは録画して、冷たい雨の降る中、旭川の繁華街、通称『3・6街(さんろくがい)』へ。
軽くお寿司をつまんでから、街に出た時は必ず寄らせてもらうワインのお店、という予定です。
お寿司屋さんでは、軽くお寿司とビール、くらいでサラッと切り上げる予定だったのに美味しくて、あと少し、もう少しと追加・追加…
ネタは新鮮で価格もリーズナブルな良いお店です♪
後からワインを飲むから我慢しようと思っていたのに、日本酒まで頼む始末。
だから痩せないんだよね
我、美味しい食事とお酒の前では無力なり。
お寿司屋さんを後にし、3・6街の少しはずれにある、お気に入りのワインのお店へ向かいます。
お気に入りではありますが、私たちにとってはそれなりに値の張るお店なので、常連というほどではありません。
いいところ年に2〜4回、といったところでしょうか。
今回は1年ぶりくらいの間が空いていたので、ワクワクと少しの『不安』
なぜ不安だったかというと、ここ2、3年、ソムリエであるマスターの様子が、もしかしてご病気をされているのかな?という風に見え、気がかりだったからです。
お店にいらっしゃらないことも何度かありました。
ワイン愛が深く、知識豊富なソムリエであるご主人とホールを取り仕切る奥さま、少数のスタッフ。
温かく気取らない雰囲気の、私たちのとっておきのお店。
ネオンが少なくなってきた通り沿いを歩いていくと、窓から暖かい色の灯りが漏れるこじんまりとしたお店の姿が見えてきます。
重たい木のドアを開けて中に入ると、いつものように奥さまがにこやかに迎えてくださいました。
「いらっしゃいませ、お久しぶりですね」
覚えていてくれて嬉しい。
マスターは今日も不在のようです。
通された席は、いつも必ずそこというわけではないのですが案内されることの多い奥のテーブル。
落ち着く席です。
しばらくぶりの訪問のせいか注文の形式が以前と変わっており、最初のシャンパーニュはいつものグラスではなく、ハーフボトルでいただくことにしました。
付きだしのハムとシャンパーニュで誕生日の乾杯をして、久々のお店の雰囲気を味わいます。
お腹は前の店で7割くらいは満たされてしまったので、とりあえず2品。
左の『玉ねぎのキッシュ』、絶品!本当は豚肉のリエットも食べたかったのだけれど(いくらでもワインが飲める笑)、諸事情でリストラされていた…残念!自分で作ると手間がかかるので^^;
おしゃべりしながらグラスを空けてしまった頃合いに、奥さまが次のワインはどのようなものが希望か聞きに来てくれました。
今までならそのあと、ソムリエのマスターが希望に沿ったオススメのボトルを持ってやって来て、そのワインの背景などを説明しながらグラスに注いでくれるのです。
今日も姿の見えないマスターのことを考えていると奥さまから、
「今日はかなりしばらくぶり…ですよね?」
「主人、今年の1月に亡くなったんです」
ああ、やっぱり。
去年、遠方の友人を連れてやって来た吹雪の日はいつだったか。
あの日もマスターの姿はなかった。
5年ほど前に病気が発覚してからもずっとお店に立ち続け、悪くなってからは病室から電話で、このお客様にはこれをお出しして、などの指示をなさっていたとのこと。
私たちが座っているこの席の壁には、フランスのブドウ畑の地図が貼ってあります。
それを指し示しながら、このワインはこの畑で採れたブドウから作られているんですよ、こちらの畑はね…と、穏やかな口調で語られるよもやま話を聞きながら、注いでくれたワインを飲むのが楽しかった。
もしかしたらそうなのかな…と薄々感じていたとはいえ、本当にもうお話を聞くことも、ワインを注いでもらうこともないんだ。
そう思ったら、奥さまとブドウ畑の地図がグニャリと歪んで。
あらあら💦ごめんなさいね、と奥さまを慌てさせてしまった…
いや、こちらこそスミマセン(T-T)
マスターは東京の有名なホテルでソムリエをしていたのだけれど、どうしても北海道へ帰ってきたかったと。
マスターは北海道ワインの応援隊でもありました。
道内の小さなワイナリーやブドウ畑へお手伝いに出かけ、信頼関係を築き、少な過ぎて一般には出回らないワインを、ほんの少しだけわけてもらったのだとボトルを見せてくれます。
北海道ラブの道産子の私に抗う術はありません。
それはとても美味しく感じるものもあれば、時には不思議な味や見た目のものがあったりと個性たっぷり。
楽しかった。
そんなマスターが残してくれた北海道ワインを、今日は奥さまに注いでもらいます。
店内にはマスターと、ワイナリーやブドウ畑の主たちとの楽しそうな写真を貼り付けたボードがあり、店内で被っていたハンチング帽やつけていたバッジなどが飾られていました。
お客さんが少なかったこともあり、奥さまとたくさんお話をさせてもらいました。
お葬式のあと、お店をどうしようか迷った時にお客さんに、
「ほら、いつからお店開けるの?行くからね!」
とハッパをかけられて何とかやってこられたこと、残してくれたメモやノートを見ながら頑張っていること。
でもソムリエであるご主人がいなくなれば、どうしても変わらざるを得ないこともあり、常連さんからお叱りを受けたこともあると言います。
『以前と同じようにしてほしい』と。
そうしたいのは山々だけれど、主人がいなければ出来ないこともある。ウチでは無理だけれど、そういった要望に応えてくれるお店は他にもありますよ、ということをその高齢の男性に提案してみたところ、
「この店がいいんだよ!」
と、今も通ってきてくれているそうです笑
そんな無理を言わないで…と思いますが、この高齢のお客さんもマスターがいなくなってしまったことが寂しくて受け入れ難かったのかもしれません。
それでも通って来てくれるのは、やはりこのお店が好きだからでしょう。
そんなお店を残してくれたマスター。
55歳、亡くなるにはまだまだ早く、正直残念で寂しい気持ちでいっぱいです。
けれど時々訪れるだけの私たちにさえも、こんなにも痛みを与えるのだから、マスターは意味のある立派な人生を全うしたのだと心から敬意を表します。
〝姿はこの世から消えても生きざまや思い出は残り、私たちが忘れない限り永遠に失われることはない〟
また一つ年を取ったから、というわけでもないでしょうが、生きること・この世から去っていくことを考えさせられた今年の誕生日でした。
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秋、というよりも初冬を迎えるこの時期に聞く寂しいお知らせは、他の季節よりも更に切なく感じます。
秋も終わり、生き物の気配が遠くなった庭に立っていると、夏に賑やかだった植物や生き物たちのさざめきを思い出し、重ねて見送ってきた人や動物たちを思い出します。
去ってしまうものたちを引き止められないのは悲しいけれど、それは自然の理。
今は冬枯れたこの庭にも、また春が来て命が生まれることを待ちましょう。
今朝、旭川にもようやく遅い初雪が降りました。
去年よりも28日も遅かったそうです。
私は寝坊助なので、起きた時にはもう消えていたけれど笑